こてゆび雑記文庫

こてゆびってオタクの雑記が溜まっていくだけです

「停車中の列車は」は本当に技術がいるのか

おはようこんにちはこんばんはこてゆびです。

今回は下車の話です。

ここでいう「下車」とは、「大変な途中下車シリーズ」の略で、鉄道を素材にした音MADのことを指します。

その下車についたコメントで

「停車中の列車は」技術いる

というコメントを覚えている方はいらっしゃるでしょうか?

 

そうです。往年の名作、「Toyamagest」の中盤(0:50頃)についてるコメントです。

視聴者の方々は「やっぱり難しいんだろうなあ」と思うかもしれないし、作者でも苦難している方がいるかもしれません。

というわけで今回は「停車中の列車は」というセリフ合わせは本当に技術が必要なのか?ということを検証したいと思います。

 

まずはToyamagestの「停車中の列車は」がどう合わせられているかを見ていこうと思います。

 

上で貼った動画を実際に再生して頂ければわかると思いますが、「停車中の列車は」という長いセリフが2拍に収まっています。

Q.2拍ってどんくらいだよ!

A.曲に合わせて手拍子をしてみてください。手拍子1回が1拍です。つまり2拍の場合は手拍子2回分の長さ、ということになります。

もうちょい細かく見ると「停車中の」で1拍、「列車は」でもう1拍という構成になっています。

 

文章だけで書いても分からなくなりそうなので、図にしました。

実際にやってみた

じゃあそれに倣って合わせてみましょう。Almagestの同じ部分を使います。

私は富山の放送素材を持ってないので、同じ方が放送を担当していた浜松駅の放送で代用します。以下がその音声です。一応音量注意。

 

これをさっき述べた「停車中の」と「列車は」の2つに分割して、それぞれ1拍の長さに縮めたものがこちらです。

 

こんな感じ、まあ悪くはないと思います。

でもなんというか、「一文字一文字が合ってない感」があるのがわかりますか?

 

一文字一文字が合ってない、そりゃそうです。なぜならセリフというのはご丁寧に一文字一文字同じ長さで喋ってるわけじゃないからです。

ニコニコのコメントで「一文字ずつセリフ合わせしたらいい」と言われる一因はこれにあると思います。

先程の動画の場合、音声波形がセリフのどの部分なのかを示したのが以下の画像です。

すごくざっくりです

これを見ると、それぞれの発音の位置が偏り気味なのが分かると思います。それぞれのパーツを等間隔に手直しすれば理屈上きれいに合うわけです。

「っ」(促音)は何も言わない部分なので、1パーツの長さを示していません。つまり最悪何も置かなくていいとは思いますが、その辺の細かい話は後で述べようと思います。まずは等間隔に並べる事だけを考えます。

 

下車を作ったことのある人なら分かると思いますが、先述した1拍の長さには4文字分のセリフ*1を入れることが多いです。例えば、「まもなく」とか「とうきょう」*2のようなセリフはちょうど1拍に収まります。

 

さっきも言いましたが「停車中の」で1拍、「列車は」でもう1拍です。

「停車中の」の音声波形を見ると「てい」「しゃ」「ちゅう」「の」の4つに分かれています。細かいことは考えずこの波形を等間隔に配置すれば理論上は綺麗に聞こえるはずです。

「列車は」=「れっしゃは」は、「れ」「っ」「しゃ」「は」の4文字分なのでこちらも等間隔に配置すればそのまま綺麗に納めることができます。

 

というわけで音声波形を見て等間隔に並べたものがこちらです。

今回「っ」の部分は何も入れてません。

これだけでかなり変わります。相当聞こえは良いです。「一文字ずつ刻もう」というコメントも来ないでしょう。

でも私としてはまだ気になるところがあります。なんというか

「ていしゃちゅうのれっしゃは」ではなく

「てしゃちゅのれっちゃは」に聞こえるような…なんというか…

 

もっと細かい部分を直していこうと思います。

「ちゃ」を「しゃ」に直す

一番気になるのは多分ここです。

なぜちゃんと波形の大きな部分を合わせているのにそんな聞こえ方をするのか、それは「しゃ」の子音(「sha」の「sh」にあたる部分)をカットしているからです。

この画像のように、波形の大きな部分は母音部分(「a」のところ)であり、子音部分(「sh」のところ)はそれより前にあります。まあ声って全部そうなんですけど、サ行やシャ行は母音と子音が割とハッキリ分かれています。

 

分割して再生するとこんな感じ。

「sh」と「a」の2つに分かれているのがなんとなくわかるでしょうか?

 

これをうまく「しゃ」と聞かせる方法はいくつかあると思いますが、私がよくやっているのは「子音部分を前に食い込ませる」方法です。

 

「れっしゃ」の場合、前が「っ」、すなわち前に何もないので、そのまま引き延ばすだけでOK。

「電車(でんしゃ)」や「客車(きゃくしゃ)」など、前にも音がある場合は、引き延ばしてそのまま重ねてしまいます。ただし子音部分を伸ばしすぎると前の音が聞こえなくなっちゃうので注意。聞きながら調整します。

 

実際にはこんな感じです

こうすると、ちゃんとタイミングよく「しゃ」と聞こえるようになります。

 

Q.んなことしなくても子音部分からスタートすればよくない?

A.最初は「s」の音しか聞こえない、つまり母音である波形の大きな部分が後ろにズレてしまい、「波形の大きな部分を等間隔に」という基本から外れてしまいます。こうなると「しゃ」という声は少し遅れて聞こえてしまうのです。

 

「停車」の「しゃ」も同様に

「列車」の前にある「停車中の」の「車(しゃ)」も同様に前に食い込ませます。こちらは前にもセリフがあるので前にそのまま重ねます。

 

「ちゅ」を少し伸ばす

「停車中の」の「中」の部分が少し短いような気がするので、後ろに伸ばします。つまり今度は後ろの音に重ねます。さっきと違うのは、セリフの頭部分に被ってしまうことです。こちらは少しの調整で後の音が遅れて聞こえるリスクもあるので少し慎重に調整します。

 

とりあえず、なんとなく気になったのはこの3点。「停車中の」の「停(てい)」も伸ばそうとしましたが既に「しゃ」の「s」と被っているので今回はなし。

 

で、完成したのがこれです。

 

セリフとかドアチャイムとか足しました。(音合わせは過去作から流用しました)

こんな感じで。どうでしょうか?

 

後半の「16時21分発」も、「停車中の列車は」のように文字数の多いセリフを短い尺(ここでは3拍)に詰めています。いまこの文章読む前に動画再生した方へ、ちゃんと「16時21分」って聞こえましたか?聞こえたら私のやり方は聞き取りやすいセリフってことだと思います。多分。

 

大事なことなんですけど、これは飽くまで一例にすぎません。今の方法以外にも、例えば「て/い/しゃ」「ちゅ/う/の」で三等分して合わせる方法なんかもあるし、マジで色々です。そういう部分に各作者の特徴やらコンセプトやらが見え隠れするんじゃないかと思います。どれが正解とかないんで、自分でいい感じの合わせ方見つけるなり真似るなりしてください。聞きやすくすることだけがセリフ合わせの全てではありません。

 

で、結局技術はいるの?

結局この記事の本題である「停車中の列車は」というセリフ合わせは本当に技術が必要なのか?という問い。その答え、私としては

「聞きやすくするにはちょっと必要」

だと思います。

セリフ合わせに慣れている方は別にどうってことない人も少なくないと思いますが、それが得意じゃない方や初心者の方がちゃんと「停車中の列車は」と聞き取りやすくセリフ合わせするのは少々苦労すると思います。

このコメント自体既に10年前のものだし、当時と環境が異なるかもしれませんから、Toyamagest投稿当時見る専だった私がモノ言える部分は限られます。それでも、いまベースとなっている「1拍に4文字」というセリフ合わせだけでは説明できない領域なので、もし教科書に載っていたら少し発展的な内容として掲載される部分になるのかなあと思いました。

 

というわけでまあ今回はこんな感じで締めようと思います。参考にしたりしなかったりしてください。

正直Almagestって音合わせの方がキツイよね…

では。

 


*1:これを正確にはモーラと呼ぶが、詳細は割愛する。

*2:「きょ」は発声するとき1文字分カウントである(「きょ」は1モーラである)。